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特別インタビュー「食を語る」

本気でやるから面白い。パン業界を牽引するシモンSimon・平田健太郎さんの「学び」と「挑戦」の人生。

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平田さんと出会ってもうすぐ2年。
これまでたくさんのアドバイスをいただきながら交流を温めてきました。今更ながらご質問ですが、弊社の天然酵母開発の研究アドバイザーを引き受けていただいたのは何故ですか?

お互いに知らないことを教えあえる関係に惹かれた

平田健太郎さん(以下:平田。敬称略):私は親父の代からパン屋をやっていて、未だに細々やっていてね。当然、種を作るということに関心があったのよ。

あなたは酵母、微生物の専門家でしょ。

職人の私の視点とは全く違う視点で酵母のことを知っている。それで私も勉強になるかなって。

私は顕微鏡も見たことないし、メーカーから酵母の話は聞いたりするけど、学術的な酵母の話は全く聞いたことないからね。

あなたとこうして酵母の開発に携わるのは、やっぱり学問的に知識を得たいというのが1番大きな理由だったの。

知らないことはね、いくつになっても学ぶべきだと思っている。

あなたはあなたでパンづくりを知らなかった。

こうして何回か私のところにきてパン作りの現場を実際にみて、一緒にやることで少しだけ分かってきたでしょ。こうも大変なもんかと。パン屋が種作るのはこうしてやるんかということもわかるし。

お互いわからんことを知るのは学びになる。生きとる以上は、勉強して損になることはない。

いいもんやったら、どんどん広げていって。まだ、そのいいものを知らん人がいっぱいおるわけやから。
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外国に憧れた文学少年は、世界を通して日本を知る

平田:私はね、歴史が好きなの。本もね。高校時代、図書委員になって読んでたからね。

イギリスのねぇ、シェイクスピアとか。ロシアのドストエフスキーやトルストイとか。あーゆー有名な作家の。実際行ったからね。小説に出てたところ、そのまま行ったからね。セーヌ川でもそうよ。そのままあるわけ。

若い頃はずいぶん本読んだからね。その頃はね、本なんてなかなか手に入らなかった。図書館に行って、むさぼるほど読んで。弁論もね。発表の時は原稿をかかんといけないからね。本読まないと原稿かけんわけよ。本読んでもかけんけどね。才能がないやつは、書けん(笑)とにかく小説を通じて外国にあこがれたの。

パン屋になってからも外国にたくさん行ったよ。するとびっくりなんだけど、日本ほど土地が恵まれた国はなかったの。日本は素晴らしい国だったって、そこで気づいたの。
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プラセンナは日本の豊かな土壌でとれた酵母菌から製品開発に挑戦しています。平田さんはパン職人として世界各国を巡っていますよね。日本と外国の土壌の違いはなんだと思いますか。

自然はコインの裏表のように脅威と恩恵を与える存在

平田:日本のような天候が変化が多いところってのは、安定して農業を続けるのは大変、苦しいわね。

何年に1回、災害がくるから。来ないところは珍しい、北から南まで。大なり小なり来るわけよ。ウン千年の歴史の中で日本人は自然と共生しながら生きてきたわけ。ましてや日本は島国だから、四方八方から外国の脅威だってある。そうゆう色々な過酷な状況の中で生きてきた歴史がある。

ただ、日本というのはわたしが常々言ってるように、北から南まで火山国だから。自然災害の脅威とひきかえに、日本やイタリアは食べ物も飲み物もおいしいものができるの。

世界中たくさん行ってきた。災害なんにもこないところも知ってるけど、災害こないところに美味しいものはない。

日本にずっと住んでいたら、分からないの。外国行って、まずいの食べて初めて分かるの。

外国行かん人は、日本の悪いところばっかり言ってるけど。私は世界各国巡ったから分かる。日本はすごく恵まれている。

地震も怖いけど、地震があるから日本は美味しいものがある。水もきれいだし。日本以上に温泉がある国なんて、あんまりないでしょ。温泉の恵みがあるのは、日本に地震があるからよ。外国人は温泉に入りにくるでしょ。外国には、身近なところに温泉なんかあまりないから。

私はね、15歳まで外国にすんどったから、よくわかる。日本に引き揚げたときは、おおーこりゃーって思ったけど。やっぱりだんだん年をとって分かってきた。わぁ、日本は素晴らしい国だって。

日本全国ね、食べ物美味しくないところなんて一つもない。特徴のあるものばっかり。

オランダなんて陸地が10m低いんだから。山が一つもない。

ベルギーだって丘しかないんだから。ビールはうまいね。平野はあまりない。

フランスってね、下半分はぶどうもとれない。蕎麦しかとれない。

日本のように、山あり谷あり。北から南まで各地で違う産物とかとれるのは珍しい。

いろいろ、農家で努力しているところはTV出るけど、こんな山の中でしかも手作業で農業やって。頭が下がるよね。すごいよね。自分でなんでもして、えらいよね。

やっぱりね人間は、自然に接した方がよい。日本はどこにいっても自然に接する。だからね、地域によって食べ物もそれぞれみんな違うの。個性もあって、特徴もあって、みんな美味しい。

あそこよりうまいよってのはあるけど、あそこよりまずいよってのは、まず日本にはないでしょ。だからね、日本は有難いと思う。

太平洋と日本海に囲まれて。日本は海のおかげでどんだけおいしいものができるか。

以前あなたが住んどった長野県だって、美味しいもんたくさんあるでしょ。こんな幸せなことない。山が違うのよ。ただの山じゃない。ヒマラヤみたいな山とは違うのよ。そこからでてくる水なんてね、本当に美味しい水。それがずっと裾野まで行くから。日本人はそれをうまく利用している。

日本の歴史をあまり勉強していない人は、わからない。日本と外国がどう違うか、日本の土地や歴史を改めて学んで認識しないといけない。
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「パン職人はパンだけを極めればよい訳ではない」という平田さんから教わった言葉。この言葉の意味や真意を改めてお聞かせください。

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パンは自分に与えられたテーマ。自分の頭で考える人になる

平田:この地球は、菌と酵母の世界だから。人間はいつかいなくなるけど、菌と酵母は絶対なくならない。

僕の人生は、体を動かせるうちに学べるだけ学んで、良いパンを作ること。どうせ人間はいつか死ぬ。それならね、生きている間は自分がやりたいことをやりたい。

パンと真剣に向き合っていると色々な疑問が浮かぶの。その疑問の答えを知ろうと好奇心のままに走り回ってきた。

1つのパンをつくるためには、パン以外のことを沢山学ぶ必要があった。

特に、何かを作るうえでは材料が大切なの。材料の原産地、作り方、育ち方。材料の性質をよく知っとかんといかん。パン職人としては、ここの勉強が1番大事。

昔から日本人はどうゆうものを育て、食べてきたか。そうゆう自分たちの食の歴史を子供の内から教えていくべきだと思うな。歴史を知るっていうのは、とても大切なことだと僕は思うよ。

そこに生まれた以上は、その土地のものを食べている。土地は歴史があるから。その土地を形成するのは、何千万の経過を経て形ができた。山から雪解け水が濾過されていく。そこに植物が育つ。

面白いんだけど、良い水がどうかはね。動物の嗅覚を観察するとよくわかる。犬なんか人間の1000倍も2000倍もあるわけだから。ネズミや虫だってね。人間以外の生物がすすんで飲んでいる水は、良い水。良い土地や土壌には、生物が集まる。

良い栄養素を含んだ土地の食材を食べると、美味しいだけじゃなく健康にも良いのよ。人間の子供だってね、同じ。親がさ、ちゃんとしたものを食べないと。親の血肉が子供にいくの。

私は本来は建築を学びたかった。だから学校もそっち方面に進学した。パン屋にはなりたくなかったの、最初は。親父のこと恨んだの。夜も寝れない日があった。

けど今考えたら感謝してる。パンは自分に与えられたテーマ。自分が受けた以上は、やっぱり一生懸命やるべきだと。そしたら必ずそれに対する結果、評価は出るんじゃないかと思っていますよ。

年は関係ない。年で能力を決めつけちゃだめ。若い人でも自分の頭で考える人は良いよ。年とっても何も考えない人はダメ。
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平田さんは後進の育成に力を入れているとお聞きしました。職人を育てる上で大切にしていることを教えてください。

覚えるスピードは人それぞれ。詳しく丁寧に説明する

平田:人間にはいろいろな人がいる。1人1人、理解の仕方が違うわな。本来なら50人生徒がいるとしたら、50通りの教え方をしないといかんわけ。

でも現実的にはそうゆうことはできないからね。大体パターンを決めてやるね、学校では。

でも我々のとこはね。学校じゃないから。私の個性を教えているわけよね。私のところは割と自由奔放。厳しいルールというのはあまりない。

私は難しい言葉は決して使わない。工程をマニュアルのように覚えさせることが目的ではない。

なぜこの工程でやらなければならないのか、扱う材料の性格を教えてあげながら、意味を説明してしっかりと理解させることが大切なの。とにかく詳しく教える。説明する。

間違ったときは怒るよりも、原因を聞く。成長に失敗はつきもの。

もう昔だけどね、設計の勉強していたとき、私は数学が苦手だったの。設計には絶対に数学が必要。サイン、コサイン、進めばすすむほど訳わからん。あーやだやだ、また数学の時間がきた、わけわからん。すると先生に怒られてね。怒られると余計好かんくなるのよ。

いまはパン作りを教える側になってさ。

弟子や生徒が失敗したとき、失敗の原因を聞いたら分かる。工程の中でどこを忘れているのか。焼きあがったパンを見たらわかる。パンは正直だから。

原因がわかればまた教える。詳しく。失敗のたびに。理解しないままには次には進めない。

人にはいろいろなタイプがいるから、成長のスピードが違う。

教える側としては、一方的に知識を教えるだけではなくて、相手が理解できたか確認しながらだね。こっちが習うような気持ちで質問したり、考えをきいたりもするね。
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現時点でのプラセンナの天然酵母について、平田さんの評価をお聞きしたいです。

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世の人に喜んでもらえるものを作ればよし

平田:現在の酵母の評価というのは、私が決めるなんておこがましいかな。

例えば、上手にパンを作るのはプロなら当たり前で、評価にも何もならないんですよ。

良い悪いは僕が決めることじゃなくて、お客さん。

同業者に、なんであんなパン作ってるんだって言われても、商売はお客さん主体なの。

お客さんが美味しいって喜んでくれるものを作ることができたら、そのパンに価値があるってこと。

仕事をやっていく上においては、勉強はやめたときに職人としては終わりだと思うわけ。

階級社会で大きな会社を作ったら色々あるよね。けど私にはそんなものはないし、大きく手掛けるような金もないし、ただその日のパン作りをね、一生懸やっているだけ。そんな肩肘はったことは自分には何もないのよ。

あなただってそうだと思うよ。ただ良いものを作りたい、世の中に喜んでもらえるものを作りたい。そうでしょ?

自分がね、満足する。自分の仕事。

こんな仕事したくない。パン屋の仕事はしたくないって思いながら、いやいやパンを作るよりね。

毎日ね、 おいしいパンをどうやって作ったらいいかと思って作るか。何かね、みんなが喜ぶような種が作れんかなと思た。

けど種に関しては、自分の1人の力じゃどうしようもない部分もある。

あなたも同じだと思う。いくら酵母づくりが楽しかっても、それを使って美味しくパンを作れる人がおらんと何もならんと同じ。

我々でもそう。 どんなに良いパンを作りたいと思っても、材料を提供してくれる人がいなかったら作れない。

パン屋のわたしと、酵母研究のあなた。たまたま出会いがあった。これはチャンスだと思う。

だから気づいたことは、お互いに意見をかわしあいたい。

私みたいなもので良かったら、これからもなんでも聞きたいことを聞いてくれて結構ですよ。

お互い、一生懸命頑張りましょう。
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平田 健太郎さん (Simonシモン)

パン作りには欠かせない天然酵母に魅了され、その奥深さを追及し、酵母種の研究を重ねながら、何度もヨーロッパへ足を運び、職人や研究者を訪ね歩いて技術や原料を学ぶ。福岡市が選んだ「ものづくり技能職者」のパン作りの名人として、2003年に第一回【博多マイスター】に認定され、毎日店舗に立つ傍ら、専門学校や講演会で講師を務める。

・ものづくり技能職者
・第一回博多マイスター認定
・ローソン「どんたく塩豚カレーパン」監修(2010年)
メディア出演
・FBSめんたいワイド
・ももち浜ストア
・福岡ウォーカー


Simonシモン本店/店舗情報

営業時間
7:00~17:00 (月・火・木・金)
7:00~17:00 (土・日)
定休日
毎週水曜、第2日曜 
※お盆とお正月期間
住所
〒810-0075
福岡県福岡市中央区港2-15-5
連絡先
TEL:092-741-6175
FAX:092-751-4824
Webサイト
地図
大濠公園駅徒歩7分。
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